茅ヶ崎市立病院で医薬品1億円不明 管理について

パフォーマンスのような議会

現在、医薬品1億円以上が使途不明になっている茅ヶ崎市立病院。

9月1日の市議会の初日、議員からは多くの質問が市長に飛んだ。

「さかのぼっての全容が明らかになっていない、本質的な原因究明がない」 
「被告の他に当事者はいるのではないか?」
「経営責任を含めて1億円を損失した責任とすれば、減給は軽いのではないか?」
 
・・・しかし、市長側はすでに医薬品横領事件の全体像は明らかになっていると強く主張。
 

これだけ質問をした議員も市長側の言い分を早々に可決。議員28名中、時期尚早と反対したのは2名だけで、議員の質問はただのパフォーマンスに思えた。

市立病院での、医薬品の管理状況はどうなっていたのだろう?

記者発表、マスコミ報道、市議会への報告などからまとめてみた。 


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医薬品の管理状況について

記者発表 

医薬品は、病院の地下1階の薬品倉庫で保管している。
薬品倉庫は、薬剤師が作業をするときだけ開錠し、それ以外の時間は、施錠している。鍵の管理責任者は、薬局長(夜勤時間帯は勤務者)で、実際に作業するとき、薬剤師が鍵を受け取り開錠する。

医薬品の数量管理は、在庫数を医薬品ごとに決めている。処方のため薬局から出庫されると、自動的に注文リストが作成され、常に一定数の在庫が確保される仕組み。(4/15 市の記者発表)


新聞報道

検察側は、医師の指示で患者への投薬が中止された医薬品を返品せずに着服していた、と手口を説明(6月 神奈川)

医薬品が減ると薬品卸業者に自動発注され、2日以内に納品されるシステムになっており、病院は今春まで気づかなかったという。(7/18 朝日)

医薬品の在庫は薬局のパソコンで管理。各医薬品の在庫には定数があり、その数を下回ると、自動的に製薬会社に発注されるシステム。
薬局で扱う医薬品は約1700種。目視で確認するのは極めて困難。
薬剤師には、システムにアクセスできる ID とパスワードが与えられていた。(7/19 神奈川)

勝手に医薬品の定数を変えて医薬品を発注。他人のID やパスワードを使用した形跡。患者への投薬が中止されても、システム上で医薬品が使用されたと在庫数を改ざんしたケースもあった。(7/19 神奈川)

同病院では、コンピューターによる管理システム上の記録と、薬品倉庫の実際の在庫数の照合を月一度しか行っていなかった。石川被告が払い出しの記録を改ざんした疑いもある。(7/19 読売)


以上の新聞報道や、その後の聞き取り調査などから明らかになったのは・・・

「制限なし」のシステム使用

共通のパスワード

10数年前から、現在の薬剤管理のコンピュータシステムを使っている。
パスワードはあるが、共通のパスワードで、薬剤師はだれでもこのシステムを使って薬の出庫をすることができるようになっていた。 

「誰でも業務が果たせるように」「効率的な事務処理」を優先するために、休日や夜間などの一人勤務のときも、システム使用の制限はなかった。

また、コンピューターを操作する人間と、実際に薬を動かす人間は同じだった。 

薬品の定数は誰でも変更可能

コンピューターの基準在庫数が意図的に変更されると、発注量が自動的に増減される。出庫はパスワードを設定して担当薬剤師が行っているが、個人別のパスワードではなく、共通のパスワードになっていた。

また、医師の請求伝票や電子カルテの指示と別に、架空の払い出し※ がインプットされても出庫されるシステム。

※「払い出し」・・・集めた薬を監査して、患者に投薬すること。
また、病棟へ薬を届けること。(薬を持ちだして部署を移すこと)

 

在庫数の照合は月に一度

毎月1回倉庫の棚卸し、期末にはその他のものを含めて病院全体の薬剤在庫の棚卸しを行っている。

今までは月に1回の確認で、1ヶ月のなかで、中間の30日間で薬の動きがあっても、最終日に数があっていればいいと、つじつま合わせが出来るシステム。

また、今までは保険請求との付き合わせをしていなかったために、事件の発覚が遅れた。
 

投薬が中止された薬品を返品せずに着服

患者さんに1本の薬を取置きにするが、医師の判断で治療が取りやめになることがある。取りやめになった高額な薬が、返品伝票を書かない状態で盗難にあった。 

その他、緊急用の薬は、各病棟に定数管理で置いていて、週に1、2回確認して補充している。伝票も付けているが、すべて付けているわけではない。 

 

事件発覚後の対応について

病院は現在、高額医薬品など50種類については、毎日、複数の薬剤師が使用数と在庫数を照らし合わせるなどしている。事件が発覚した4月には、薬局内に防犯カメラ11台が設置された。(7/19 神奈川)

夜間や休日に一人の職員が管理システムを操作することを禁止。(7/19 読売)

その後、8月24日の議会・全員協議会では、以下のような市立病院の管理体制の改善策が報告された。

〈入出庫管理〉

• 夜間・休日など一人体制のシステム使用を禁止。
• 出庫処理者のサイン欄を新たに作る、部署の責任者の確認欄を追加 (今まで出庫者が記録されていなかった)
• 薬品倉庫への立ち入り時間の制限 など

〈システム操作〉

• 薬剤の定数設定やマスター登録などは、権限を設定する
• 発注定数の変更は、管理職に確認を求め、変更後は責任者と数量の記録を残す
• 半年に1回の定数の見直しを行う

〈在庫管理〉

• 月1の在庫管理のほか、「高額・要管理医薬品」の在庫確認を毎日行う 
• 抗がん剤の中止による返品は、中止の指示を受けた薬剤師が返品伝票を起票し、薬品を所定の場所に返却する。
• 返品伝票の薬剤在庫管理システムへの入力は、別の薬剤師、又はSPD 職員 が行う。
• 保険請求額と購入・払い出し・在庫金額との照合を行う など

通常起こりようがない

「市立病院のような薬剤不正は、通常起こりようがない」

「薬剤の出庫は責任者と出庫数が明確に記録されている」

「重要な薬剤は特定の取り扱い責任者が管理している」 

病院に詳しい人によれば、通常では今回の市立病院のような事故は考えられないという見方をしている。

裏をかえせば、これらの改善策にあることを、今まで長期に渡って市立病院は行っていなかったし、今回の事件がなければこの後も放置されていた。

これまでのシステムと運営に、重大な欠陥があったことを認めざるを得なかったから、提出された改善策といえる。  

トップの責任転嫁の姿勢

気になるのは、トップの責任転嫁の姿勢が常に感じられること。

今年の7月に1億円以上の不明金が調査で判明し、「内部統制の問題だと指摘されても仕方ない」としながらも、「院長の交代は考えていない」と早々にコメントを出している。(8/1)

この8月24日の全員協議会では、病院長から「不祥事を起こす職員が出たことに、煮えくり返る思い」とのコメントがあった。

システムの欠陥を長年放置していたことよりも、「根本は、なぜ、このようなことを起こす職員がでてくるのかが一番の問題(副院長)」「発覚後も病院長が訓示を行っている」などの弁解に終始するような説明が多かった。

さらに、市立病院の責任者である市長、副市長の発言はこの日一切なかった。
 
同日の午後の記者会見では、元薬剤師の懲戒処分と、不祥事に対する責任として、服部市長の給料を減額する条例案を9月1日の市議会定例会に提出することなどを発表。 

冒頭のように、9月1日の市議会では、市長の責任の取り方は今回減給ですべてとする、事件の全容はほぼ解明されている、という意味合いの先決議案が早々に可決された。

このあたりは、いつもながらの市長の、身のこなしの手際のよさだ。

しかし・・・

1億以上の不明金が発覚した平成28年度分より過去にさかのぼって、現在市が調査している不明金額の全体については、まだ公表もされていない。 

今後、市は被告への損害賠償の請求などを検討するとしているが、起訴されているのは200万円余りにすぎない。

今までに分かっている不明分1億427万円のうち、被告の横領分はいくらとなるのか・・・?

さらにさかのぼって、不明分はいくら出てくるのか?

まだ、何も究明されていない。


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