「茅ヶ崎のクラスター火災を見る思い・・」
新潟県糸魚川市で22日、昼前に発生した火災は折からの南風で見るまに広がり、午後9時前の火災鎮圧まで10時間以上、炎が古い町並みをのみ込んだ。
消火作業が追いつかずに150棟、4万平方メートルに延焼が及んだ光景・・・
「まさに茅ヶ崎市で危惧されている、地震時のクラスター火災を見る思い」という声を、あちこちで聞く。
密集した木造家屋、消防車の入れない細い路地、強風など、延焼火災がひろがった条件のひとつひとつが、茅ヶ崎市と酷似している。
延焼が広がった原因は
関沢愛(あい)・東京理科大教授(建築・都市防災)の話によれば、糸魚川市で延焼が広がった原因は三つある。
1. 建物の密集・・・衛星写真で見ると火災の現場は建物同士がくっつき合うように密集している。
2. 強風・・・風の強さに、火災で起きた気流も加わって火が一気に広がった可能性が高い。
3. 消火の能力・・・糸魚川市消防本部は比較的小規模で、初期消火に駆けつけられた消防車は6台だった。
この3点に、茅ヶ崎市の状況を比較してみた。
1. 建物の密集
これは、茅ヶ崎市を上空から写した航空写真を見れば一目瞭然。
茅ヶ崎市は平塚市のような広い道路の区画がなく、昔ながらの狭い入り組んだ路地に木造家屋が密集している。
行き止まりも多く、火災からの逃げ惑いも発生しやすい。
茅ヶ崎南部の航空写真(2015/5/6、国土地理院撮影)
いまや茅ヶ崎市は、県で最大のクラスター地域。(延焼運命共同体)
特に海岸側の10671棟、9241棟の延焼規模(上の写真の全域)は、非公式ながら消防では日本一とも言われている。
藤沢市にも3000棟を超えるクラスターはない。
現在も、世代交代で敷地の広い邸宅が売りに出されれば、樹木がすべて伐採され、何軒もの住宅が詰め込まれるように建てられ、クラスターの増大に歯止めがかからない。
加えて、火災延焼を止める緑と公園スペースの確保については、市長と議会の対策が後手にまわり、消滅する一方だ。
茅ヶ崎市は「市民一人当りの公園面積」が県で最下位に近い。
2. 強風
22日は、日本海に低気圧が発達し、北陸地方や北日本で強い風が吹き荒れた。糸魚川市周辺では南風が強まり、午前5時過ぎから強風注意報が出ていた。
気象庁によると、午前10時過ぎに14.2メートルの最大風速を記録し、最大瞬間風速は正午すぎに24.2メートルに達した。
100m離れた建物に飛び火
糸魚川市消防本部によると、午前10時28分に119番通報があり、7分後には消防車が到着。当初は6台で消火にあたった。
消防士らは火元の火の勢いを抑えようとしたが、狭い道も多く、住宅密集地でもあるため、放水作業ができる箇所が限られていたという。
消防防災課長は「風が強く、どんどん飛び火して、消火作業が追いつかなかった」、現場に駆けつけた消防士は「強い風にあおられた火が約100メートル離れた建物に飛び、火の手が急速に広がった」と話した。
糸魚川大火では「強風で火の粉が飛び、あちこちで火の手があがった」という住民の証言も目立った。
茅ヶ崎の海岸側では、砂が飛ぶような南西の強風が吹き荒れることも多い。木造家屋が密集し、道の狭い茅ヶ崎市でも、やはり飛び火は起こるだろう。
風向きの変化は焼失をひろげる
阪神・淡路大震災のときは、ほぼ無風だった。
しかし、水道管が大地震で破損して、消火したくとも水が出なかった。
神戸市における住宅全焼7121棟は,関東大震災に次ぐ規模で、強風であったら、さらに延焼は広がっていた。
関東大震災では、台風や低気圧の影響で、10mほどの強い南風が吹いていた。
この風は夕方に急速に西に向きを変え,夜に強い北風となり21mの最大風速を記録した。2日は再び南風になった。風が強く飛び火も発生、その風向が大きく変化したことが焼失を大規模にし、火災旋風がさらに被害を巨大にした。
3. 消火の能力
糸魚川の大火は「平常時」の延焼火災だった。
しかし、「大地震時」という平常時とまったく異なる条件が、糸魚川市より人口がケタ違いに多い茅ヶ崎市に加わると、消火はどうなるのか?
大地震の直後、消火のために大量の水が必要、しかし・・・
阪神淡路大震災では、次のようなことから水が出なくなり、消火活動に支障が出た。(減災どっとこむ より)
• 配水管・給水管の破損
地震により配水管や給水管の破損などが発生。あちこちで、大量に水がもれ、神戸市では、地震後1~2時間で「水位ゼロ」となった配水池が19箇所。一部の浄水場施設も被害を受ける。
• 消火栓が使えない
停電により送水ポンプが働かない、断水や水圧低下により十分に活用できない消火栓が多数発生。
• 防火水槽は空に
防火水槽自体も家屋の倒壊や破損によって水がもれる。また水槽の水も、放水ですぐ空になってしまった。
• 飲料水の確保
配水池の送水で、神戸市では飲料水の確保と消防用水の供給とのはざまに揺れた。
• ホースの破裂
井戸やプール、ビル受水槽のほか、土のうなどで河川をせきとめて取水をした。海水利用を試みたところもあったが、つぎたしたホースは通過車両に踏まれ、何度も破裂した。
震度6程度 30分後に配水は遮断
茅ヶ崎市にある配水池(赤羽根)は、250ガル(震度6は250~400ガル)の地震を観測すると、30分後に自動的に緊急遮断弁が閉じる仕様になっている。
また、30分を経過しなくても、配水池の容量が確保水量を下回ると、飲料水の確保のために自動的に配水が遮断される。(神奈川県企業庁茅ヶ崎水道営業所)
いずれにしても、直下型などの震度の大きな地震のときには、水道管の破損に加えて、自動的に配水が遮断されて断水の可能性がある。
つまり、火を消したくとも水が出ない、、、
住民の初期消火はどこまで可能?
平常時のように消防車が5分で到着するだろうか?
(119に電話が殺到して、通じるかどうかも分からない)
地震による大渋滞が起これば、火災現場に消防車は到着出来ない。
また、出火は1カ所ではなく、市内数カ所で同時に出火する「同時多発火災」が発生する想定が出ている。
茅ヶ崎の街は、JRの線路で分断されているので、北の消防車が南へ行くのは困難。
防火水槽の水も40分で底をつく。
断水すれば移動式ホースは使えない
初期消火活動は、時間とのたたかいになる。
10分で炎は屋根まで、20分あれば隣に燃え移る。
強風であれば、100m先へも飛び火して延焼する。
住民が火災に気がついて、「移動式ホース格納庫」を設置し、放水する頃には、ほぼ1軒は炎上している状態が想定されている。
移動式ホース1本からの放水で、炎上している建物の消火は困難(目的は、延焼の阻止)。さらに、移動式ホースは、水道管が破損して断水すれば使用できない。
(消防車のようにポンプ式でないので、防火水槽の水は放水できない。)
川が近くにあるなど、何らかの取水ができるなら、バケツリレーの方が有効かもしれない。
一方で、住民は倒壊した家屋に閉じ込められた家族や隣人を救出しなければならない。
高齢者の安否確認や移動も、行政からまかされている状態だ。
木造家屋の密集+強風+地震による断水など、悪条件が重なってくれば延焼をくい止めるのは困難になってくる。
幅300m、高さ30m 炎のカーテン
木造密集地域を広範囲に抱える茅ヶ崎市では、火災を制御できなければ、木造建物が連続している限りどこまでも燃え続けることになる。
糸魚川の大火のような状態が、1カ所でなく、市内各所で同時に発生していく。
火炎が成長して大きくなると、その幅が300m、その高さが30m にもなる。(10階マンションの高さの炎のカーテンとなる)
火炎から100m 離れていても輻射熱で火傷を負うことになる。
そのため、 同時多発火災などで炎に囲まれてしまうと、炎の間をすり抜けて避難することができない。
震災時では、同時多発火災などで炎に囲まれてしまうまえに、災の輻射熱や煙から身を守れる、じゅうぶんに安全な広さを持った「広域避難場所」が必須となる。
大規模火災 熱風に耐えられる限界距離は107m
火災から身を守るために、どこに逃げますか?
今回の糸井川市の大火では、公民館、市民会館などに住民が身を寄せていた。
関東大震災では、 避難場所を求めて移動していた人々の行く手を巨大な火炎がさえぎり、また小さな避難場所に逃げ込んでいた人々の周囲を火炎が取り囲み、多くの命を奪っている。
大規模火災から避難するのは、火災の熱の届かない広い場所。
茅ヶ崎市では、火災から逃げる場所として「広域避難場所」を指定している。家の近くに「広域避難場所」がない場合は、木造密集地域から離れた広い場所。
小・中学校のグラウンドの広さでは、茅ヶ崎市のように巨大な延焼火災が想定されている場合、状況によって火災の熱風に襲われ、命の危険にさらされるリスクがあるからだ。
www.city.chigasaki.kanagawa.jp
茅ヶ崎市の「広域避難場所」はリスクと反比例
住宅の密集するクラスターは南部(海岸側)へ行くほど巨大化するのだが、それに反比例して「広域避難場所」が狭く、少なくなっていく。
「茅ヶ崎ゴルフ場」については、この周辺は 10671棟という県で最大の巨大な延焼規模を持つ住宅密集地なのに、県と茅ヶ崎協同が「広域避難場所」である「茅ヶ崎ゴルフ場」を開発、避難場所の面積を半分にしようとしている。
それが、震災時に糸魚川のような延焼火災が発生した場合、住民にとってどれほどのリスクを与えるのか、、?
数字を見れば一目瞭然だろう。
広域避難場所=茅ヶ崎ゴルフ場を開発する県
【平成21年3月に神奈川県の出した被害想定】
南関東地震が冬の18時に発生した場合、茅ヶ崎市では出火件数37件、焼失棟数 21780棟となり、市域全体の33%の建物が焼失、死傷者のほとんどが火災に起因することが予想され、他市町と比較し、火災による被害が特筆して高い。
また、南関東地震に限らず、神奈川県の被害想定のモデルとなる8つのパターンの地震全てにおいて、茅ヶ崎市は大火災になり、甚大な被害を被ることが予想されている。
「茅ヶ崎ゴルフ場」の6割は県有地。
「広域避難場所」の安全面積は、国・県・市の基準で1人2平方メートル。
周辺夜間人口6万人なので、12万平方メートルの広さが必須となり、これは「茅ヶ崎ゴルフ場」の県有地の広さに該当している。
ペット率も県で2位の茅ヶ崎市では、ペットのケージを抱えて、大量のペット避難も予想される。
この「茅ヶ崎ゴルフ場」の避難面積を開発により半分に減らし、残りの面積のつじつま合わせに、県と事業者は、何と134号線の砂防林!を「広域避難場所」に指定してきた。
車いすも入り込めない砂防林のヤブを指定された住民の怒りはおさまらない。
茅ヶ崎市の広域避難場所を開発して「藤沢にも広域避難場所があります。」と住民に答える茅ヶ崎市長。
「柳島に広域避難場所が増えるから、5km歩いて逃げればいい。」と答える副市長。
災害は、想定外だから災害、平常時とは違うという前提で住民の命を考えているのだろうか?